※上記リストはあくまで”Image Sensors”という様な明確なイメージセンサジャンルに分類されているタイトルのみのリストです。
他にも他の講演分野で、イメージセンサやそれに使える技術の発表は存在すると思いますが、今回は時間の都合上そこまでは拾っていません
※右端の”概要”欄は、私が自分用にタイトルから適当にキーワードを拾った様なもので、正確では無いですので、あまり見ないでください(≒見て厳しく突っ込んだりしないでください^^;)
※表の色分けの意味は(私の現状の好奇心により)以下となっています
水色ハッチ :日本の組織が絡んだ発表件 (海外組織と合同の場合もこの色にしています)
ピンクハッチ:TSMCが絡んだ発表件
緑ハッチ :量子井戸構造を用いたものやセレン膜を用いた、シリコン以外の無機撮像素子(?)発表件
黄色ハッチ :有機光電変換膜を用いた撮像素子発表件
組織欄の赤字:パナソニックが絡んだ発表件
上記表を眺めていて、私が漠然と感じたことをまとめると以下となります。
発表組織や国に関しては・・・
①この分野は未だ日本勢強し! ”圧倒的じゃないか我が軍は!”状態
②中でもこの12月IEDMと来年2月のISSCCに限るとパナソニックが凄い!
③しかし海外勢でもTSMC恐るべし!半導体ファウンダリ王者が遂にイメージセンサ分野も本腰か
④逆にソニーは恐ろしいほど静か・・・これは逆に違和感。何か別次元の隠し玉が既にあるのじゃ!?
発表タイトルに目を移すと・・・
⑤これからのIEDMとISSCCに限ると、量子井戸構造を用いたものやセレン膜を用いた、シリコン以外の無機撮像素子(?)及び 有機光電変換膜撮像素子 発表件が激増している
⑥”積層型センサ”もタイトルに見られるが、最早”積層型センサ”ということだけではこのレベルのカンファレンスでは採択されなくなっている
⑦(間違い無く裏面照射型センサを使ったものも発表件の中に何件もあるはずだが)”裏面照射型センサ”は(目新しく無い≒発表のメイントピックでは無いためと思われ)最早発表タイトルにほぼ存在しない
⑧その他、タイトルからこの一年の最先端のイメージセンサ分野のキーワード(有機、Si以外の無機、積層型以外)を抽出すると以下の様な感じではないかと
低ノイズ / Wide Dynamic Range(WDR/HDR) / グローバルシャッタ / single-photon-counting / アバランシェフォトダイオード
以下順に備忘録も兼ねて補足ですが、
今年度の3大半導体国際学会のイメージセンサ部門においての、日本勢の絡んだ発表件の割合ですが、
VLSIシンポジウム: 3 / 5=60%
IEDM : 4 / 7≒57%
ISSCC : 6 / 9≒67%
トータル :13/21≒62%
いや~これは先端イメージャー研究分野では日本勢本当に圧倒的な強さと言って問題無いでしょう。
日本の誇るトヨタ(を含む日本の他の車メーカー合算)でもこんなシェア持ってませんし、
日本が強いフィギュアスケートだって、平均すれば日本人選手が表彰台の6割を占めるってことは無いでしょう。
ましてや凋落が叫ばれ続けている日本の電機関連分野でこんな占有率にお目に掛かることは現状は無いと思います。
そんな中でも
パナソニック。
なんとtotal21件しか枠が無い中で、なんと5件も発表があるという・・・これはほぼ1/4の枠を持っていったことになりますΣ(゜Д゜)
しかしそんな日本勢がうかうかしていられない事実も当然あって、
パナソニックに続く発表件数を誇るのが現状世界最強の半導体ファウンダリ”TSMC”で、4件。これは全体のほぼ2割相当。
昔からイメージセンサも作っていたのでしょうが、個人的には”撮像素子はTSMCの主力分野にはほど遠い”イメージだったのですが、ここ1~2年、何かimagerも主力分野だよというメッセージを送られている様な気がしてなりません(^^;)
そして上記2社に対して逆に超不気味(というか、個人的な立場で言えば超期待!?)なのがこの分野の王者のはずのソニー。
なんと本年度の発表件数”0”
これには違和感を感じずにはいられません。発表できる内容を持って無いとは思えませんし、申請してるけど軒並み論文採択されていないということも無いと思うのですが・・・
ここでふと思い出したのが、
青色半導体ダイオードの中村修二さん。
日経エレクトロニクスか何かの昔のインタビュー記事で、「実用青色半導体ダイオード発表の半年前くらいになると、学会で同分野の人間と話していても、もう話のレベルが合わない。自分がtopを走っていることを確信できたので、それ以後は学会には出ずに研究室にこもりました」
という様なニュアンスの話を読んだことが頭に。
ソニーも今同じ様な状態になっていて、着々と何か凄い撮像素子の発表に向けてラストスパート中とか!?
・・・と妄想するのは、私がソニー撮像素子ファン過ぎなだけでしょうか?(^^;)
あと、冒頭まとめに書きませんでしたが、以下いくつか。
こちらは不気味では無く”不思議”なのですが、今回パナソニックの5件の発表件の内、3件が有機光電変換膜を用いたいわゆる”有機撮像素子”件。
パナソニックの有機撮像素子と言えば、富士フイルムとの共同での開発として発表されていました。
しかし、パナソニックが多数発表するのに対し、富士からは一件の発表も無し・・・
私はこの共同開発の発表を見た時、両者の会社のイメージからてっきり開発の役割分担的には以下の様な感じだろ と決めて掛かっていました。
膜自体の研究開発 :富士フイルム
それを用いた回路やセンサ自体:パナソニック
ですので、”有機撮像素子の開発の新規性というか主役の部分はどちらかと言うと富士の方の比重の方が大きいな”と。
そんな主役だと思っていた富士フイルム側からは対照的に発表が無いというのが個人的に不思議です。まさか富士側はドロップアウトしていて、有機撮像素子の開発をやめちゃった なんてことは無いと思いますが・・・とすると、これはどういうことなのでしょうか?
次に、オリンパスの計2件というのも立派というか、ここ何年か精力的に発表しているな~という印象です。
↑2件の内の1件が弊blogでも採り上げた
コチラ。
もう一件はIEDMにおいて、
積層型センサで、top基板側は通常のRGBセンサ、bottom基板側はIR(近赤外光)を受光する用のPDを配置して、可視光(フルカラー)とIRを同時に受光可能なイメージセンサについての発表の様です。
そしてキヤノンからは
コチラ(の最後)で採り上げた2.5億画素センサの発表がISSCCで。
タイトルの2行目”Using Column Single-Slope ADCs”(シングルスロープ列ADCを用いた)から、遂に
Canonも研究開発レベルのイメージセンサではデジタル信号出力センサに取り組んでいることが間違い無くなりました。
(キヤノンは少なくとも今までデジタル一眼レフ向けイメージセンサにおいては、
chipworksの解析結果や
キヤノン自身のHPの記載など(←共にリンク先の最後の方に記載)からアナログ信号出力のイメージセンサを用いていたと思われます。もちろん解析されていないカメラ搭載のセンサに既にデジタル信号出力センサが用いたれている可能性はあります)
それに加えてちょっと気になるのは、上記ADCsに掛かるタイトル最後の" with Dual-Gain Amplifiers”です。
直訳すれば、”二つのゲインを持つアンプ”・・・なのですが、アンプで複数ゲインを掛けられる構成というのは珍しいことでも無いですし、その手前のシングルスロープ列ADCというのも
ソニーや
Samsungは普通に使っている技術で特に目新しくありません。
しかしそう言ってしまうと”using~”以下のタイトルはあまり意味が無い≒特徴が無いことになりますが、果たしてこのキヤノンの発表は2.5億画素という画素数の多さだけで選ばれたものなのか?それともタイトル2行目にも何か新しい技術が潜んでいるのか?
IISWの時にも書いたのですが、積層型センサ(=stacked Image Sensor)は、最早このimager世界(?)の一大ジャンルと言っても良い様な情勢が、この3大半導体国際会議でもやはり見られています。
現状は”この積層型という構造をどうイメージセンサに活かすか?”(←信号出力レート?平面チップサイズ?コスト?多機能?)というところに趣向が凝らされているように感じますが、
先週採り上げたNHKの33Mpix240fpsのイメージセンサも積層型で、そしてTSMCと共同発表件。
そしてISSCCでのそのNHK連合(?)の発表の一つ前の発表がTSMCの単独発表。そしてそのタイトルにも33Mpix積層型センサの文字が・・・
これは両者の発表は全く無関係と考えるのは逆に無理があるように思うので、恐らく基本的には同じ試作イメージセンサから別件で二つに分けて発表することになったのだと思います。
では”33Mpixと積層型以外のどこに二つの発表の共通項があるか”と言いますと、
33Mpix240fpsセンサは、その画素数とフレームレートから信号処理を超高速で行わなければならず、そのため何も工夫しないと消費電力が非常に莫大なものになってしまうと思われます。
その消費電力増加の抑制or低減が、TSMCの発表内容の元の目的であったのではないかと。
つまり、詳細は全くわかりませんが、基板に加える電圧を負バイアスにすることによってどうにかして電源電圧を1.5Vと、現状のイメージセンサにしてはかなりな低電圧にて特性を出すことを成功させ、電源電圧が低い分消費電力も減らせるという、話の流れなのかなと。
上記に加えて、今回のNHK連合の方の発表タイトルには
”3stageの”サイクリック型ADを用いた~という一文が。
今まではNHKは「消費電力の増加を抑えるために2stageにした方が良かった」という風に見解出していました(←3.2の章)ので、今回は恐らく更に高速読み出しを図るためには、
同じ2段のサイクリック型ADの構成でより電流を増やして高速化を図るよりは、
3stageにして(1つのADに使用するアンプの数を増やしても)パイプラインADに近づける様なアプローチの方が、
トータルでADに取られる消費電流は小さくて済む・・・という様な結論に達したのではないかと思います。
その結果、こちらは電流を減らすこと(≒あまり増やさないこと)によって、消費電力の増加を抑えたという話も一部出てくるのではないかと。
そしてシリコン以外の無機膜を用いたセンサ(?←ずっとこの言い方を使ってしまっていますが、この呼び方が良いのかどうか・・・?)ですが、
NHKがここ数年、結晶Se(セレン)膜(←より正確には多結晶Se膜の方が良いと思うのですが)を用いたイメージセンサの研究開発をしていることは知っていました。
今回もNHKからの発表はこのセンサの続報だと思われます。
で、
自分が意外だった(≒ここで言いたかった)のは、NHK以外にもこの”セレン”という材料に目をつけている組織が複数あったということです。
IEDMの方で、Waterloo大学というところと、パナソニック/兵庫大学の二つから続けて1件ずつ。
私が知らなかっただけと言えば知らなかっただけだと思うのですが、どうやら”セレン”という材料をイメージセンサに使うことに興味を示しているのは、NHKだけでは無かった様です(^^)
そして最後にメインの(?皆さん最近最も興味をお持ちの?)有機光電変換膜を用いた、いわゆる有機撮像素子について。
ちなみに私、毎日デジカメ系のサイトを2度以上徘徊する様な不毛な人生を歩んでいるのですが(^^;)、どこも今回のISSCCのパナソニックが一件目に発表する(先週私も一言取り上げた)120dBのワイドダイナミックレンジで1.6elnの超低(リセット)ノイズな有機撮像素子の件が話題になっている様です。
が、何故か2件目に発表する”Motion Capture用(=動画用?)の21万電子の飽和が出る&感度可変&グローバルシャッター機能搭載の”3um□の有機撮像素子について言及しているところは無い様です。
何故なんでしょうか?
動画用だからあまり静止画メインのデジカメサイトでは注目されないから?
しかし、結構適度な画素ピッチな感じに加え、グローバルシャッタ機能搭載、画素数とフレームレートによっては、動画からの切り出しで十分静止画用途に転用可能そうなセンサに思える上に、
21万電子も飽和が出れば、もし1件目と同じ1.6elnにノイズを抑えられれば(1件目ほどでは無いにしろ)、ダイナミックレンジは100dB程度になって、現行の素子に比べれば(例えばSamsungのNX1搭載のコレの飽和3万電子&77dBとか←この素子、確かDxOmarkで現在APS-CサイズでNo.1評価だったはず)圧倒的にダイナミックレンジの点で高性能になるというのに・・・
またISSCCよりも先にもうすぐ始まるIEDMの方でも、同じくパナソニックから
”0.9um画素ピッチでグローバルシャッタ機能搭載の”有機撮像素子が発表されます。
こちらは丁度スマホに良さそうな画素ピッチのセンサで、グローバルシャッタ機能搭載。
そしてここからが更に注目なのですが、(IEDMの方はタイトルに加えて、超簡単な説明も
programに入ります)
”
electrical iris control without ND filter, phase difference detective autofocusing are demonstrated.”
つまり、”
NDフィルタ無しの電気的なアイリス(=絞り)、位相差AF、のデモを行う”
上記を”部分的かつ時間的に有機光電変換膜中の電界を調節することによって”行うという風にも書かれています。
これで、もし仮に有機撮像素子が全盛の時代が来ても、現在のスマホで最早常識となりつつある像面位相差AFの機能が有機撮像素子搭載カメラでも行えそうなことがわかりました。
また、
現在のスマホでは多くのものが(全てが?)絞り固定のカメラであるのに対して、この素子が実用になればメカ機構の追加無しに絞りを絞ったり開いたりすることだって出来る様になるということです。
正にこれはスマホ向きの機能ですよね(^^)。
ちなみに先に書いたISSCCでのパナソニックの2件目の”感度可変”のセンサですが、この感度可変機構というのも、恐らくは上記IEDMと”膜中の電界を制御することによって行う電気的なアイリス”と同じことを言っているのでしょうね。
そして、
パナソニックの有機撮像素子の発表に、合わせてグローバルシャッタ機能が付加されていることが多いことについてですが、
いくつか理由があるのかもしれませんが、その一つに、
”有機光電変換膜のお陰で、シリコン半導体中に今までの様にフォトダイオードを配置する必要が無いいわゆる積層型センサ構造となるため、シリコン中にグローバルシャッタ用の保持容量を代わりに配置するスペースが生まれたから”
ということは無いでしょうか?
ふとそんな風に思いました。
いずれにしても楽しみな発表たちですね(^^)
あとは、これらが、量産性、コスト、長期の信頼性など、いつ頃実用になるか?ということなのですが・・・
ps ISSCCのパナソニックの1件目の話題になっている120dBのダイナミックレンジセンサなのですが、画素ピッチはおいくらなのでしょうか?
仮にノイズはリセットノイズのみの1.6elnとしても、これで120dBのダイナミックレンジを得ようとすると飽和電子数は凡そ200万電子ほどが必要になる計算です。
2件目の発表が3um□で21万電子であったのですから、同じ材料、同じ会社、同じ製造条件であれば画素面積は約10倍必要になり、概略9um程度は画素ピッチが必要になる計算ですが・・・
それとも、高飽和用製造条件or材料、高感度製造条件or材料・・・といった様な、既にそんな使い分け可能な程度な色々なことが開発済みなのでしょうか?
興味は尽きません(^^;)
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