4年に一度の祭典も、”そろそろドイツがゲルマン魂を見せるまでもなくシステマチックに淡々と奪取していきそう” な今日この頃。
'12年3月終わりに幣blogの初エントリを行ってから早2年以上。
以来、非公開のエントリも含めると、このエントリで105個目となるようです。
その間、このblogの”拍手”という機能を使って拍手をしてくださった方もいくらか存在してくださいまして、
その中で、最も拍手数が多い(と言ってもたったの”5拍手”ですが(^^;))エントリが、こちらの
サムスンのGalaxy S5搭載撮像素子のISOCELLと彼らが呼ぶ画素の断面を扱ったもの。
普段は読み手のことなど考えずに、ただひたすらに私の興味のみに従ってエントリする題材を決めてきた訳ですが、今回は拍手をしてくださった5名の方の期待に応えて(?)、もしくは後ろめたさを感じて(^^;)一部内容訂正のエントリを。
しばらく前に
chipworksから以下の様なメールが。
(↑チップワークスは登録しておくと、たまに”最近こんな解析やったよ~。良かったら買ってね~”というセールスメール?が届きます)
「あ~GalaxyS5の奴ねー。前チップワークスのblogになってた奴じゃん」
・・・・・・
と、読み流しそうになった直前、私の目に飛び込んできたのが
”
back-DTI”
という文字。
「
ん!?バックDTI?しかも”サムスンの裏面照射CMOSイメージセンサプロセスが顕著にリフレッシュされている”だと!?」
今回はそんなお話です。
[10回]
ちなみにchipworksは、
ツイッターも
リンクトインもやってます(何故かFacebookは無いようです)。こっちは結構更新早くて、もしツイッター、LinkedInやられていて、この手の情報が混じっても気にならない方にはいいかもです。
冒頭メール写真をクリックすると強制的にpdfファイルのダウンロードが始まり、以下からはローカルに保存されたそのpdfファイルに書いてある情報が元になっているため、情報ソースのアドレスをリンク出来ないのが辛いのですが、そういう状況であるとご理解ください。
↑こちらはソースの証拠がてらという意味合いで載せただけですので、大した情報はありません。
Samsungの”S5K2PXX”
という型番の
ISOCELL構造で位相差検出AFを採用した、GalaxyS5搭載の1600万画素CMOS Image Sensor
の情報をチップワークスから
↑ISOCELLとは?という前説ですね。
このページにも私がblogに残しておきたい情報は既にありません。
右下のISOCELLの断面写真も含めて
既出です。
ただ本blogエントリの前フリとして重要なのが、最後の◆箇所
「チップワークスが解析した、”
S5K4H5YB”という型番の画素ピッチ1.12um□の8Mpixセンサからは、
Vertical transfer gates(VTG) と front-deep trench isolation(F-DTI) が採用されていた」
GalaxyS5に実際に採用されているセンサの型番は、1ページ目の写真にあるように
”S5K2PXX”
です。
上のページに右下にある写真は
以前のblogで採りあげたものですが、
こちらの写真のセンサ型番は
”S5K4H5YB”とのこと。
そうなんです。チップワークスの
originalのblogは、チップワークスがGalaxyS5本体を分解した際にupしたもので、その時点ではセンサ自体の解析はまだでした。
”センサ自体の解析はまだこれからだよ。でも我々は8Mpixel版だけど、Samsungの以前解析済みのこのセンサの構造が同様に採用されているとexpectしている”
という風に、チップワークスが
「きっとGalaxyS5搭載センサも、以前のこの8Mpixel板と一緒だよ」
と予想したのが、上のページの右下の写真だったという訳なのです。
つまり、
以前紹介した画素断面写真は、GalaxyS5でメインカメラ用の撮像素子の座をソニー製から取り戻したSamsung製センサ自体の画素の断面写真ではなかった
ということです。
↑ で、Samsungが今年の2月に Mobile World Congress で
1/2.6インチで16Mピクセルの”improved version”のISOCELLイメージャーを発表しました と。
像面位相差AF画素採用については、新たな情報は特に無いのでここではスルー。
↑ で、問題で本題のページがここです。
以下◆で始まるのは上記資料の文言。
◆サムスンの文献を元に、チップワークスはGalaxyS5には、F-DTI(front-side deep trench isolation)とVTG(vertical transfer gate)の構造を期待(予想?)した
◆しかしながら、サムスンは
1.12um□画素で1600万画素のISOCELL素子を以下構造で発売した
・
vertical gate transistors (VTG) (垂直転送ゲートトランジスタ)無し
・
部分的な深さまでのback-DTI
◆フルプロセス解析の詳細は以下で買えますよ
上記資料の解説(?)は以上までです。
私が気になった、もしくはポイントかなと思うところを、以下順不動で。
①本当に垂直転送ゲート(VTG)構造では無いのか?
だとしたらどうやって信号転送を?
そうでなければわざわざ(信号転送可能な様に)画素飽和が小さくなってしまう以前の構造(以下左下図)に戻したのか?
(↑DTI構造が深さ方向全てではなくなったために、左下の構造でもPD面積が十分確保可能になったのか?)
②以前は同じ1.12um□画素で、深さ方向全てにDTI構造採用実績があって、技術的には可能であるにも関わらず、
何故最新の、そして自社の自慢のスマホに採用する撮像素子においては、通常混色対策が不完全になると思われる、深さ方向途中までのDTI構造の方を採用したのか?
⇒もうこの答えは明白で、
Samsungが”こちらの構造の方がトータルの特性で考えた時に性能が上”だと判断したから
に違い無いと思うのですが、
”では何故このGalaxyS5採用撮像素子の方の構造の方が以前の構造よりも性能が良いのか?”
に興味が移ります。
考えられる答えの内の一つに、以下があるのでは?と思います。
深さ方向全てにDTIを配置した方が混色に対しては有効だが、DTIとPD部の純粋なシリコン間の欠陥増加による暗電流や輝点画素増加という副作用が予想される。
今回混色に対する対策を別に打ったため、上記副作用を低減させるためにDTIを途中までの深さに抑えた
(≒途中までの深さに抑えても、今までと同等の隣接画素間の混色に納めることが出来るようになった。そして途中までの深さにした方が、DTIとシリコン界面が減るため、暗電流をその分低減することが出来た)
で、上記”別の対策”に相当するのが、以下③と④なのではないかという気がします。
③今回のGalaxyS5搭載撮像素子の方は、
カラーフィルタ間にも画素間の混色防止用と思われる何等かの材料による遮光が施されている (←写真下側のDTIの真下あたり)
もうこれは、
今年のISSCCでサムスンがこのISOCELL構造を発表した際の登壇者のコメント通りのことをしたということですね。
(サムスン登壇者コメント「
私は、数年前にパナソニックがIEDMで発表したカラーフィルタ間のライトガイド(light guide)と本件を組み合わせた画素を見てみたいと思っている」)
以前のサムスンの構造ですと、シリコン内の画素間の混色対策は(DTI内部材料がpoly-Siであったことを除けば)100点満点だったと思うのですが、カラーフィルタの厚さもそれなりにあるため、斜め光でカラーフィルタを通過した光子が、シリコンに到達前に(カラーフィルタの層中で既に)隣接画素に入射して混色を引き起こしてしまうことがある
という点において、まだ混色対策が不十分であったと言えると思います。
今回のライトガイド構造(?)によって、上記カラーフィルタ中の混色がそれなりに防止出来るようになったと思われます。
ただ、写真だけで見ると、もう少し下までライトガイド構造を延伸した方が混色対策としては有効な気がします。
私がこの写真だけを見ると、何かカラーフィルタの厚さの途中までしか画素間にライトガイドが無いようにも見えるのが気になるのですが・・・
④DTI内部の材料が明らかにpoly-シリコンではなくなっている
上記断面写真のDTI部の色を比較してもらえれば明白なのですが、以前のものは、PD部のシリコンと同様の色をしている(←これは単結晶か多結晶かの違いはあれど、同じシリコンという材料であったからと思われます)のが、今回のback-DTI部の色は白くなっており、明らかにシリコンで出来ているPD部と物質が異なります。
恐らく 酸化膜(SiO2)ではないかと思います
自信はありませんが、恐らくpoly-Siよりも酸化膜(SiO2)の遮光性能の方が高いと思いますので、ここでも(DTIの存在する深さまでにおいては)、GalaxyS5搭載撮像素子の方が混色に対する耐性は高くなっていると思われます。
⑤では何故そのより有効な混色対策であるDTIを従来通り深さ方向全てに配置しないのか?
もしくは、何故従来通りフロントサイドから穴(DTI)を掘らずにbackサイドからDTIを掘るのか?
もしくは、DTIの形状が何故入り口が以前よりも太めで、最後の方が細くなって終わるのか?
異なる疑問を一つにまとめてしまっているようで、うまく説明出来ないかもしれませんが、恐らく上記は同じ理由に根ざしていると思います。
⑤-1:
DTIを深さ方向全てに掘ってしまうと、そのアスペクト比の大きい穴に酸化膜を埋めきることは出来ないから
⑤-2:深さ方向全てにDTIを有効に形成出来ないのであれば、
裏面側(光入射側)と表面側のどちらにDTIを形成すれば、混色対策としてより有効なのか?と考えた時、裏面側に配置するべきとの結論になった。
その場合には、back-sideからDTIを掘って形成するしかなかった
⑤-3:
上から下まで同じ太さの穴(DTI)を掘った場合、やはり酸化膜を綺麗に埋めることが出来ないため、(本来はなるべく細く形成した方が画素特性にとっては良いはずだが、仕方なく以前よりも)入り口が太く、そして奥が徐々に細くなる形状にせざるを得なかった
⑤-1と⑤-3が密接に関係していて、ほぼ同じことを言っています。
これは
以前のエントリのコメント欄で匿名さん(匿名の方)が教えてくださったように、”poly-Siを細い穴に均一に埋めるのは比較的容易だが、酸化膜(SiO2)になるとそれはそれなりに難しい”ということからきていると思います。
事実、写真の三つあるDITの内、特に一番左のものは、DITの中央部に薄く縦長にSiO2が埋まりきらなかったと思われる隙間を見つけることも出来ます。
この太さ及び形状及び深さが、チップ(もしくはウェハ)全面にわたり綺麗に酸化膜が埋まりきる限界だったのだろうと思います。
⑤-2は若干毛色が異なりますが、
以前のエントリの最後の写真図でサムスンが主張している様に、
サムスンとしては、このDTI構造を用いて達成したかったことは、スマホ用カメラモジュールとして、レンズ含むユニットの厚さを抑えたかった(≒抑えても混色等の特性は維持したかった)のだと思います。
つまり、そのためにはレンズまでの距離を縮めて
”斜め光の入射角度が大きくなった時でも”混色を以前と同等以下に抑制しなければならないということだと思います。
⑤-1の理由で、光入射側かその反対側かのどちらかにしかDTIを配置出来ない制約が出た結果、
特にチップ周辺部の画素で斜め光の角度が強くなった場合、③のカラーフィルタ間のライトガイドと合わせて、なるべく光入射側に光を遮断(≒反射)させる素子分離を配置した方が、入射側と反対の奥側にだけ配置するよりも、混色対策として有効だという判断なのだと思います。
恐らく上記①~⑤が、chipworksが言うところの
”サムスンの裏面照射CMOSイメージセンサプロセスが顕著にリフレッシュされている”ところなのだと思います。
本年2月のISSCCで「このデバイス構造は三次元集積の偉大な傑作」とまで言い切って1.12um□画素のセンサを一度完成させた後に、開発を続けた結果、このGalaxyS5搭載素子の画素構造の方が、1.12um□画素としてトータルバランスが良いと判断したということだと思うのですが、
②~⑤は、何となく上に書いた内容で私は納得するのですが、わからないのが①です。
一端採用されたVTG構造をやめるメリットは一体何だったのか?本当になくなっているのか?
2月にISSCCで発表し、その時にはVTGについてSamsungは言及しており、しかしもうその時裏ではこのVTG無しの画素構造を同じ2月のWorld mobile Congressで発表するGalaxy用に完成させていたことになります。
う~ん、本当にVTGはなくなっているのでしょうか?
まあチップワークスの解析結果なので、間違っているとは思えないのですが、それにしても不思議です。
その他、大事なことではないですが、以下気になったことの続き。
⑥表面側はメタルの4層で構成されており、かつ(当然ながら?)光入射する隙間も無いくらいの密度でメタルがある
以前の写真撮影領域では、表面側のメタルの配線総数はわからなかったのですが、やはり裏面照射型センサは、(表面側から光が入射しないため、配線高さを抑える必要が無いからか)リッチに配線層数を使うのですね。
⑦今回の素子は少なくとも2画素周期以上の画素レイアウトになっている
恐らく、FD等の2画素ないしは4画素共有の回路構成なのでしょうか。
DTIが存在するところが1画素の区切りであることは疑いようが無いと思うのですが、シリコン層からメタル1層目へのコンタクトが写真中央部のところにしかなく、その左右の箇所には存在しません。また、メタル4層目の配置は逆に写真中央部にはなく、その左右の画素の同じ箇所に対称に存在します。
これは、以前の写真は一見は1画素毎に同じメタル配置になっているのとは変化している点なのかなと思いました。
最近のその他の会社(ソニー、Aptina、Omniあたり)の1.1um□画素ピッチレベルのセンサの画素断面はどんな構造になっているのでしょうね。
気になります。
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