毎年この時期に、
NHK放送技術研究所公開(通称”技研公開”)が行われます。
今年は5/29(木)~6/01(日)に公開されるようで、既に
今年のパンフも出来上がったようです。
ここ二年、私も週末お邪魔して、このblogを始めた年から以下の様なエントリを立てているのですが、
'12 高速読み出し撮像素子用立体構造トランジスタ
'13 高速読み出し撮像素子用立体構造CMOSインバータ
'13 技研公開概要
'13 有機撮像デバイスに向けて
'12 8K4K120fps(スーパーハイビジョン向け)イメージセンサ
今回、今年の技研公開用に(?)
新たなCMOSイメージセンサの発表がありました。
概要としては、
・単板カラーCMOSセンサ
・光学フォーマットサイズ:フルサイズ(35mm:受光面対角長43.2mm)
・画素数:1.3億画素 (15360×8640)
・フレームレート:60fps
今回発表センサは、上記過去エントリの最後にリンクしてある'12年の8K4K120fpsセンサの事実上ハイスペック版という位置づけのものなのかなと思います。
フレームレートだけは後退してしまいNHKの提唱する”スーパーハイビジョン”の規格120fpsに届きませんが、何といっても
1.3億画素(←今までのNHKの8K用センサは3300万画素。実にその4倍の画素数!)で60fpsのフレームレート。
フルサイズセンサというおまけつき。
そして、
動画用センサとしては、現在公表されているセンサの中では最高の画素数だとか。
全く(色んな意味で)驚きのスペックです(^^;)。
[4回]
上の図は
技研自身が公開しているものですが、見て頂けるとわかるように、
画素数が元々のスーパーハイビジョン用センサ(8K4K)の丁度4倍というのには意味があって、
RGGBのベイヤ配列のセンサで、8K4K≒3300画素の単板センサを作ると、
1画素のカラー出力をするのに周囲の他の色の画素から情報を補間して1画素を構成しなければなりません。
NHK的にはこれは”偽スーパーハイビジョンであって真のスーパーハイビジョンでは無い!”という恐ろしいほどの崇高な理念の下に企画されたセンサな気配で、
今回発表されたセンサは、その崇高な理念を追求しつつも、”3板式カメラ”という実運用上大きさやコスト等で不便の多い方式では無く、運用が相対的に容易な単板式カメラにおいて真のスーパーハイビジョンを実現しようとした結果なようです。
また、
”フルサイズというおまけつき”と上で私は表現しましたが、こちらも意味も無く受けが良さそうなフルサイズという画角を選んだという訳では無く、
1.3億画素で例えばスーパー35mm画角のセンサを作ってしまうと、”画素ピッチが小さくなり感度・SN低下が大きいので画質的に問題が多い”という考えの下、現在流通している中で次に大きい光学フォーマットである35mmフルサイズを選んだという経緯な様です。
↑また、35mmフルサイズであれば、(技研が独自にレンズを用意しなくても)写真用の豊富なレンズ群がすぐに利用可能であるから というのもあったようです。
画素ピッチは公表されていない様に思いますが、行列数と35mmフルサイズの公表値を信じると、
36000um÷15360≒
2.34um□
スーパー35mmでこの画素数を押し込めてしまったとしたら1.5um□程度の画素ピッチのセンサになってしまいそうです。
フルサイズの光学フォーマットを採用したのはトータルバランスを考えると、確かに妥当な選択な様に思われます。
さて、画素数が1.3億画素でおまけにフルサイズ、
この条件で60fpsという読み出し速度は如何にCMOS型の固体撮像素子であろうと容易なものでは無いはずです。
2年前に発表した8K4K120fpsのカメラでさえも普及はおろか、恐らく技研の中でも1台か、あっても2~3台しか存在しないのでは?と思われるシチュエーションで、更なる画素数向上方向に研究・開発リソースを振り向けているとは、私は想像だにしていませんでした。
全く技研恐るべしです(^^;)
(そんな単純では実際には無いはずですが、)単純に考えれば、上記
2年前のカメラ(撮像素子)に対して、
画素数4倍 / フレームレート半分
ですから、
センサ単体の読み出しスピード的には倍速になっている計算です。
世の中にはハイスピード映像記録用として、4Kで900fpsや1000fpsで撮れる
こんなカメラ(センサ)やまた
こんなカメラ(センサ)も存在はしており、今回技研が発表したセンサよりも1画素の読み出しにかかる時間は計算上短いですが、
いずれも
連続撮影可能時間は10秒前後(の特殊用途)です。
対して、NHK技研は当然放送を視野に入れているカメラを開発していますので、今回発表のセンサを積んだカメラも記録媒体の容量が続く限り、電源が続く限り、連続撮影可能なものになるはずです。
全く映像データひたすら吐き出しお化けみたいなカメラです(^^;)
上記リンク先の2年前のセンサの読み出しスピードですら、現状でも途方も無く速いもので、
96チャンネルの並列読み出しで、列並列ADCは2段サイクリック方式という(現状稼動しているカメラに搭載されている撮像素子としては恐らく唯一ではないかと思われる)AD方式を採用したセンサが積まれています。
上記列AD方式は、世の中には以下の様なものが現在乱立(?)しています。
①
ソニーに代表される、シングルスロープ積分型
②
Aptinaに代表される(?)、逐次比較型
③サムスンが研究している(もしかしてサムスンは既に自社センサに使っている!?)ΔΣ(デルタシグマ)型 (←サムスンが研究していると表現したのは、
ISSCC2010の発表タイトルに存在したから)
④
HNK技研及び静岡大学に代表される(?)、サイクリック型
列ADCでデジタルデータ化された後の信号は、(チップ面積や受け側の機器の都合を無視すれば)最悪どんどん出力pinを増やして読み出しチャンネルの並列数を増やせば(かっこは悪いですが)、センサの読み出し速度をある程度青天井に上げることは可能そうです。
が、列並列読み出しまでが限界(≒画素ごとに独立して信号を同時に読み出すことが現実的では無い)な現状では、列ADCは画素数及びフレームレートを要求されると、後はひたすら高速ADを実行するしか道は無くなります。
そういった意味で、
今回のNHK技研が発表した1.3億画素のこのセンサの列ADCは、上記①~④のいずれの方式なのでしょうか?
はたまた上記には無い、第5の方式なのでしょうか?
個人的に今回のセンサで興味を持っている箇所の内の一つです。
上記疑問を解決する糸口かもしれない情報が、別に事前に発表されていました。
Forza silicon 100M+ピクセル60fpsの監視カメラ
撮像素子の光学フォーマットサイズに関する情報が載っていないのではっきりとは言えませんが、個人的には、上記
Forzaの撮像素子と今回の技研発表の撮像素子は同一のものである可能性があるのではないかと考えています。
理由は、画素数(100M超)とフレームレートのスペックが世の中では相当稀有であることと、以前NHKとForzaが共同でセンサ開発を行っていたことがあるからです。
昨年の技研公開のエントリの中ほどの以下写真↓のカメラ
2.5インチ(≒概略フルサイズ)の3300万画素(SHV)60fpsカメラなのですが、筐体は日立国際電気製で、搭載撮像素子はForza silicon製という風に説明員が言っていました(実際確か技研自体も公表していたはずです)。
そしてその証拠(?)となるのが、
IISW(インターナショナルイメージセンサワークショップ)2009年の
この発表レジュメ。
タイトルと発表者名のに続き、ForzaとNHK技研双方の名称が並んでいます。
更にこのレジュメの中ほどのスペック表↓に
”ADC 12bit Successive Approximation” の文字が。
つまり、
少なくともこの時の技研とForzaのAD方式は、上記②のAptinaと同様な逐次比較型だった様です。
その後も、技研と共同ではありませんが、Forza siliconは単独で高速読み出しセンサ用のAD方式の研究開発を続けた様で、同じくIISWの
2011年、
2013年でイメージセンサ用途の逐次比較型の列ADコンバータに関する発表を行っています。
と、言う訳で、まだ今回のNHK技研が発表したセンサがForzaと共同開発と決まった訳でもなし・・・
また、仮にForzaと共同開発であったとしても、列ADCの方式が以前のForzaと同じである保証も無し・・・
という状況ではありますが(^^;)、ここまでくるとForzaの列ADに興味が出てきたので、そのままもう少し話を進めますと(^^;)、
↓上記2013年のIISW発表資料にある図を見ますと、
↑中ほどに”
CLoad=0.7pF”の文字が。
これはつまり逐次比較型ADに必須の容量の総量がこの値に収まったということの様です。
これは(ADの分解能にもよりますが、)私が想定していたよりも小さな数字(=チップ面積の肥大化を抑えている数字)でした。
本文を流し読みするに、技術の内容は理解していませんが、”各キャパシタを効率的にキャリブレーションすることにより、トータルの容量を0.7pFに抑えることができた” とのこと。
この回路は図中に二つある”calibration capasitors”が鍵を握っているようですね。
今度、興味が残っていたら、この発表分を読んでみようと思います。
おまけ:
NHKは、スーパーハイビジョン(8K)のアピールにいつも余念がありません。
今度は
ブラジルW杯をスーパーハイビジョンでパブリックビューイングするイベントの募集を現在行っているようです。
試合自体も個人的には興味があるのですが、8K映像を地球の裏側から生伝送してくるという放送技術的に未知の実験の行方にも興味があります。
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