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Imager マニア

デジカメ / デジタルビデオカメラ / スマホ用の撮像素子(イメージセンサ/imager/CMOSセンサ)について、マニアな情報や私見を徒然なるままに述べるBlogです(^^;)

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Samsung ISOCELL 実断面 ~GalaxyS5搭載撮像素子 埋め込みゲートとFront Side Deep Trench Isolationと像面位相差AFと

Samsung(三星)のドル箱事業であるところのスマホの最新機種”GalaxyS5”の分解記事chipworksにupされています。

imagerマニアとしての注目点は、搭載センサの”ISOCELL”の実構造。
以前のこのサムスンのISOCELL関連エントリにて、

 ・実際のところ具体的にどんな構造なのか?
 ・実際のところどうやって作っているいるのか?
 ・実際のところデメリットまで考慮すると、メリットはどの程度のものなのか?

という疑問を残して終了したのですが、その一部だけですが、明らかになっています。

↑チップワークス GaraxyS5メインカメラ搭載撮像素子写真

拍手[8回]

まずは、chipworksの分解記事のイメージセンサに関する部分のポイントと思うところを以下箇条書きで。
オレンジ色は私の勝手な書き込みか補足。

 ・メインカメラはSAMSUNG製の新規の1/2.6インチ 16Mpixセンサ
 ・GaraxySⅡ~S4まではソニー製センサ搭載だった
  (自社ドル箱事業のスマホカメラ搭載イメージセンサの座を今回自社製に奪還した。それだけの自信作なセンサということでしょう)
 ・SamsungのイメージセンサチームはISOCELLテクノロジーを開発
 ・ISOCELLは、30%のクロストーク(混色)低減と、30%の飽和upを達成
 ・ISOCELLの顕著な特徴は、フロントサイドディープトレンチアイソレーション(front side deep trench isolation)と埋め込み転送ゲート(buried transfer gate)
 
半導体用語として、
 trench isolation:穴を掘ってそこに(普通は酸化膜などの)絶縁物質を埋めて形成する、電気的な素子分離のこと
 今回のこのSamsungの”front side deep trench isolation”の"front side"は、下で出てきますが、どうやら裏面照射型センサの表面側(front side)から穴を開けているということからきているみたいですね。

 ・既に2013年にこれら二つの技術要素は製品化されていることを知っている
  F-DTIは、HTC ONEのUltraPixelカメラのSTMicroelectronics製素子に
  VTGsは、ソニーのサイバーショットカメラに
  それぞれ採用されていた

VTGs(埋め込み転送ゲート)は、ソニーの方が先だというのは知っていたのですが、ISOCELLの核と言えるF-DTI技術もSTMicroの方が先だったんですね。
なんだか少々興ざめです。

 ・以下がサムスンの8MピクセルセンサのISOCELL技術の断面写真
  (GalaxyS5の16MP版も同じ構造だと思われる)

上記写真で言うと、上がフロントサイド(表面)、下がbackサイド(裏面≒光が入射してくる側)

下にいくほど穴が細くなっていることから、やはりフロントサイド側から穴を開けているようです。
裏面照射センサの製造方法(順序)からしても、フロントサイド側から穴を開けるのが自然だと思うので、サムスンの米国特許”US 20130307040”の内容と合わせてフロントサイド側から穴を開けているので間違い無いと思います。
(上記特許の執筆者=発明者が、ISSCC2014のプログラムでISOCELLの報告者となっている人物と同一であることから、特許の内容が実際に製品に採用されている技術と見て間違い無いと思います)


 そして、ISSCC2014の解説記事の中にあって驚いた、”F-DTIはpoly siliconで満たされている”という内容が、このチップワークスの解析(上記写真白文字)で裏付けられました。

 上記USパテントと同一人物が書いているこちらの特許
US 20130221410をサラッと眺めてみましたが、このトレンチの掘り方と埋め方の詳細は書いていないように見えます。
穴のあけ方は”通常のSTI技術”という様な表現になっているように思えるので、このざっとアスペクト比が10倍はあろうかという穴も、今の技術であれば掘れるということなのでしょうか。

 また、穴のあけ方は100歩譲って通常のSTI技術の延長で掘れるとして、POLYシリコンをこの細い穴に埋めるのをどのように行っているのか私にはイメージ出来ません。
通常のLPCVDの様な堆積(depo)方法では、この細長い穴には埋まらない様な気がするのですが・・・。
 そして従来からクロストークが”この構造なのにある意味30%”しか”改善しない理由も、このPOLYシリコンでわかった様な気がします。polyシリコンは遮光性能がある金属では無いので、シリコン中で光子が電子に変換された後は隣接画素に漏れたりしないでしょうが、光子な内は吸収されずに隣接画素に透過していってしまうことがありそうに思うからです。

 ・サムスンのCMOSイメージセンサグループは立ち止まらない
  2月のモバイルワールドコングレスにおいて積層型(stacked)チップを発表した
 ・今後我々はサムスンのフラグシップphoneからどんな技術を見つけるだろうか?
  それは時間が教えてくれる。しかし正に今、サムスンはソニーに接近し、そして勝とうとしている
  
 update
 ・メインカメラチップのダイマーキングは”S5K2P2XX

↑チップワークス写真 メインカメラの16Mpixセンサ表面の恐らく顕微鏡写真
(画素領域四隅からチップ四隅へ向かう斜めの線は何!?)

 ・像面位相差AF用の画素が、有効画素領域のほぼ全面に近い領域にわたって配置されていた

↑画素領域の割と端まで配置された位相差AF画素


↑ 恐らく上記写真を一部拡大したもの
通常のベイヤ配列センサ

 以前のエントリで、各社の像面位相差AF画素の配置の仕方等を分類しましたが、
Samsungはあえて分類すると、”離散配置型”の方になるでしょうか。
そして位相差AF画素へは、GreenとBlue画素をあてているようで、上の写真に見える範囲においては、RED画素は位相差AF画素へは割り振っていませんね。
しかし、全体的な配置がかなり独特で、規則性はあるようですがおもしろい配置です。

補正エラーの見えにくさと縦線横線へのAF能力を考慮して、完全なライン状配置とすることを嫌ってのことなのではないかと思います。

 ・我々が見たことがある位相差画素の中においては、最も小さい画素ピッチのもの
 ・かつ裏面照射型センサにおいては、東芝の1.4um□画素ピッチのものに次いで二番目
 ・この位相差AF用の画素の存在は、このサムスンのセンサにおいて(位相差AF画素の半分を遮光するために)裏面側にも遮光材料が配置されていることを意味する
 ・サブカメラもsamsung製、ダイマーキング(型番)”
S5K8B1YX03” 画素ピッチ1.12um□の2Mpix裏面照射型CMOSセンサ

 chipworks記事は以上です。

最後の赤字の、裏面照射センサの裏面側で遮光を行う方法はどのようになっているのでしょうか。それも技術的に気になるところです。




 以下、恐らくISSCCにてSamsungが発表した時の資料ではないかと思われるものを掲載してあるページの資料からこのISOCELL技術について補足を。


↑小さい画素にDTIを導入した際の問題を説明
 左:通常の裏面センサのフォトダイオード模式図
 右:裏面センサにF-DTIを導入した場合のフォトダイオードの模式図

DTIの幅分(オレンジの分)だけ実効的なフォトダイオード領域(=体積)が減少
 ⇒飽和電子数が、通常裏面センサで5000エレクトロンだったものが、F-DTI導入で1500e-へ

 ↑飽和電子数が1/3以下へ激減している説明なのだけど、一体"Small Pixel"というのは何umくらいの画素ピッチを想定してのものなのでしょうか?
chipworksの断面写真を見ると、やはりDTIの幅は0.2um程度はありそうですが・・・

またサイトの原文では、クロストーク量の絶対値が記載してあって、

”通常のBSIセンサの19% から ISOCELLセンサは 12.5% へ減少した”

とあるのですが、詳細な条件は全く書かれていないので何なのですが、
「元々そんなにクロストーク量多いの!?」、「減ったと言ってもまだ10%以上は嘘信号(≒偽色信号及び輝度的にも隣接画素の偽信号)が混じってるの!?」
と思ってしまったのが本音です。
 デジタル一眼カメラ搭載センサはもちろんそんなに悪い数字では無いと思いますが、「やっぱり狭画素ピッチ化は良くないよ」と思った次第でした(^^;)


↑ 今度は裏面センサにF-DTI以外に一緒にVTGと埋め込みフォトダイオードを導入併用した場合
 左:通常の裏面センサ (さきほどと同じ)
 右:裏面センサにF-DTI、VTG、埋め込みフォトダイオードを導入併用した場合

 VTG(Vertical Transfer Gate:緑の部分)と埋め込みフォトダイオード(Buried PD:赤い部分)をF-DTIに加えて更に導入すると、
トランジスタとフォトダイオードのスペースが縦方向に分離されて、飽和電子数が5000e-から6200e-に増える

 ??ちょっと納得出来ないのが、実際上の様な模式図の通りで(上で紹介したSamsungのUS特許によれば、実際のセンサもほとんど上図の様な構造になっているようだった)うまく電荷が転送出来るのであれば、飽和も増えるのだろうけれど、そんなにうまく転送出来るのか?
 まあ、上記疑問の鍵を握っているのがVTGって奴なんだろうな~
ソニーも採用実績があるVTGなので、きっと効果はあるのだと思いますが、何か直感的にはVTGの効用がピンときません(^^;)


↑ ISOCELL構造のお陰で斜め光入射にも強くなったというアピール図

左:カメラモジュールの断面模式図
右:ISOCELL構造(青線)とノーマルな裏面照射センサ(黒点線)の(恐らくセンサ周辺部の画素の)垂直光入射時に対する相対感度の入射角度依存

 右上のグラフは、垂直光入射時に対して、センサ周辺部の信号強度が85%を下回ってしまう入射角度が、
 通常裏面センサ:29°
 ISOCELL構造裏面センサ:35°
というのを訴えている図と思われます。
 その結果、”センサ周辺部の信号強度を同じだけ確保できれば良いという思想であれば、カメラモジュールの厚さ(レンズとイメージセンサチップとの距離)を現行から20%低減できますよ” というアピールが左上の図ということの様です。

 上記までの各比較内容が事実であれば、有意な特性upは間違いなさそうですが、この真偽のほどは今後のSamsungセンサのシェアが判定してくれるでしょうか。
ただ、どちらにしても、このISOCELLという構造自体(製造方法含)は私には興味深いものでした。



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コスト次第

> imagerマニア さん

詳細な解説ありがとうございます。

F-DTIは遮光層だと思っていたので、ポリシリコンだったのは意外ですね。
この程度の色分離の改善なら、レンズのF値に応じた隣接ピクセル間クロストークの減算アルゴリズムを、画像処理エンジンに準備すれば充分なように思えます。

VTGはダイナミックレンジの向上に明らかに寄与しますが、F-DTI + VTGで普通のBSIと同等になるだけなので、F-DTI無しのVTGセンサーの方がダイナミックレンジは広くなりますね。

最終的には、F-DTI + VTGセンサーのコスト次第でしょう。

Re:コスト次第

>F-DTIは遮光層だと思っていたので、ポリシリコンだったのは意外ですね。

 意外でした。

 しかし後から思うと、「何だったら意外では無かったのか?」と問われたとしたら、
「何だと聞いても”意外だった”」となったような気もします。
遮光というとすぐに思いつくのは金属・・・タングステン、アルミ、銅あたりですが、いずれもやはりこの穴に埋めるには難しいような気がします。
(しかも上記の様な金属ですと、polyシリコンを埋めるよりも圧倒的に欠陥が増えそうな感じがします。結果、暗電流やら輝点やら発生・・・)


>最終的には、F-DTI + VTGセンサーのコスト次第でしょう。

 おっしゃる通りですね。
この構造で工程数も増えるし、歩留まりも上がるはずは無いので”安くして数を出す”のか、”数を出して安くしていく”のか経営的なセンスの方が問われそうです(^^;)

  • imagerマニア
  • 2014/04/10(Thu.)

DTIの埋め込み

半導体関係者です。DRAMではこれよりアスペクトの高い製品がありますので、掘ることは問題無いでしょう。埋める方は、Poly Si、SiNのLP-CVDは表面反応主体なので特に何の工夫も無く埋まります。SiO2で埋めるのは結構難しくて、成長速度の遅い(=コストの高い)製造方法が必要になりそうです。

DTIの埋め込み

半導体関係者です。DRAMではこれよりアスペクトの高い製品がありますので、掘ることは問題無いでしょう。埋める方は、Poly Si、SiNのLP-CVDは表面反応主体なので特に何の工夫も無く埋まります。SiO2で埋めるのは結構難しくて、成長速度の遅い(=コストの高い)製造方法が必要になりそうです。

Re:DTIの埋め込み

>DRAMではこれよりアスペクトの高い製品がありますので、掘ることは問題無いでしょう。

 コメントありがとうございます。
DRAMでは普通(?)なんですね。
DRAMはAL5層くらいのものもあると聞いたことがある気がします。
イメージセンサと異なり光入射を気にする必要が無いため、配線やその層間膜厚も薄くする必要も無いでしょうから、シリコン表面からICの最表面までの厚さはイメージセンサよりも厚そうですよね。
 ただよく理解できていないのが、DRAMで何故そのような高アスペクト比の穴(via?)をあける必要があるのか?というところです。


>埋める方は、Poly Si、SiNのLP-CVDは表面反応主体なので特に何の工夫も無く埋まります。
 
 そうなんですか!poly-Siだと普通に可能なんですね。ご教授ありがとうございます。
こちらも追加質問になってしまうのですが、
”表面反応主体”ですと、穴の上方のところから反応が先に始まり、その後穴の深いところが埋まる前に入り口をpoly-Siが塞いでしまってガスが底面まで入れなくなり底面は反応が止まる・・・
 というようになって、深いところは空洞になって埋まらない というようなことにはならないのでしょうか?

  • imagerマニア
  • 2014/04/10(Thu.)

無題

英語のサイトで恐縮ですが、ここ
http://cnx.org/content/m24897/latest/
のFigure1 (b)のようにならずに、(a)のようになるのか?というご質問ですね。プロセス条件によってどちらになるかが変わります。

短い文章でわかりやすく説明するのは難しいですが、Poly Siを例に説明します。
「穴の上方のところから反応が先に始ま」らないように、Low Pressureにして、穴の奥深くまで原料のSiH4ガスの濃度差が少ない状態を作ります。SiH4ガスは表面(この表現が誤解されたのかもしれません。Si基板の表面ではなく、穴の中でも固体と気体の界面は表面です。)に吸着し、熱エネルギーを得てH2が離脱してSiになります。理想的には穴の中でも外でも同じ速度で膜が成長する事になりますが、現実にはわずかながら濃度勾配があるので、穴の情報が少し厚く付きます。但し、穴の径も情報の方が少し大きいので、条件をうまくコントロールすればきれいに埋まります。

Re:無題

>のFigure1 (b)のようにならずに、(a)のようになるのか?というご質問ですね。

 そうですそうです、そのイメージで質問させて頂きました。

>「穴の上方のところから反応が先に始ま」らないように、Low Pressureにして、穴の奥深くまで原料のSiH4ガスの濃度差が少ない状態を作ります。SiH4ガスは表面(この表現が誤
(中略)
で、穴の情報が少し厚く付きます。但し、穴の径も情報の方が少し大きいので、条件をうまくコントロールすればきれいに埋まります。

 私、”表面反応主体”という言葉のニュアンスは理解していたようですが、「CVDを何故Low Pressure下で行っているのか?」ということを理解していなかったようです。
低圧下で行うと、”ガスが極めて均一に分布可能”ということなのですね。
そのため、”反応がどの様な箇所でも均一に起きてそして止まる”という結果になるという。
そしてそれがこんな高アスペクト比な穴でも有効だということに改めて驚かされます。

 お陰様で、逆説的に、Samsungが「何故poly-SiでF-DTIを埋めたのか?」という疑問も解けたように思います。
”本当はメタルで形成したかったが、それは無理だと判断し、F-DTI構造を実現するにはpolyシリコンしかなかったから”
 勝手に上記で一端納得しました。
この高アスペクトの穴を、スパッタでアルミやカッパーを飛ばして埋めるのはそれこそ困難そうだからです。

 今後も是非ちょくちょく覗いて頂いて、色々教えてください。ありがとうございました。

ps 以下エントリの、東芝製センサにパッシベーション膜が無いように思えるのは気のせいでしょうか?それとも最近は無くてもICの信頼性は保証可能なのでしょうか?
 また、東芝のセンサの上面写真で、センサが灰色に見えるのは、東芝のセンサの配線が銅であることと関係ありそうでしょうか?
東芝センサが写真上何故あのような色に見えるのか(Aptinaもそうですが)前から不思議に思っています。
 http://imager.no-mania.com/%E4%B8%80%E7%9C%BC%E3%83%AC%E3%83%95-%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%82%B9%20%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%AB%E3%83%A1%E6%90%AD%E8%BC%89%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B5/nikon%20d5200-7100%E6%90%AD%E8%BC%89%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%81%AE%E7%94%BB%E7%B4%A0%E6%96%AD%E9%9D%A2

  • imagerマニア
  • 2014/04/12(Sat.)

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