まず、
2011年のIISWの発表時のCMOSISセンサから同様ですが、
①画素領域の上下方向に信号を分けて読み出す方式
②列アンプ搭載で、列ADの方式はシングルスロープ型
そして今回のセンサは本文中から、
③4行同時読み出しで、2行ずつ撮像領域の上下に振り分けて読み出し
④ ③のため、列回路は画素ピッチのハーフピッチでレイアウト
以前SamsungのNX1搭載センサの時に触れましたが、最早昨今速いフレームレートで信号出力が要求されるイメージャーには、垂直複線配線での複数行同時信号読み出しが普通の様子ですね。
⑤1行(=1H)を3.8uSecで読み出す
⑥AD分解能10bit
⑦ ⑤の内、signalのAD変換に要している時間は2.7uSecで、1440code(≒10.5bit)
⑧出力インターフェースはLVDSで、出力レーンは36ペアで、1ペアの信号出力レートは700Mbps
1440行あり、4行同時読み出しのため、実効的な行数は1440÷4=360行
1行あたり3.8uSecで読み出すため、1フレームの読み出しに要す時間は、3.8uSec×360行=1.368mSec
上記計算からフレームレートは、1Sec÷1.368mSec≒730fps
発表されているセンサ≒カメラフレームレートと辻褄が合いますね。
また10.5bit=1440codeを2.7uSecでAD変換するということは、
AD変換の1カウントの時間=周波数は、2.7uSec÷1440code=1.875nSec≒533MHz
これは
ONSemiのセンサの時に触れたのですが、1行=1H(←1Horizontal=1水平期間)が、3.8uSecというのは現状においては激速の部類だと思われます。
(Nikon1V3搭載センサが4.58uSec、同じ本年IISWでONsemiが発表したセンサが4.85uSecという様な感じ。比較対象にした上記双方のセンサともに速い部類のセンサなのではと思っています。ただAD分解能は共に12bitであるのに対し、本報告センサは10.5bitであるので、その分はそもそも1行の読み出し時間を短縮しやすいことになりますが)
さすが700fpsセンサ。
(ADの変換周波数533MHzというのは、現在においてはさほど目を見張るものには思えません。)
しかし、ズルでは無いのですが、後にそのカラクリの一端が判明します(^^;)
↑横軸光入力に対して、左からそれぞれ縦軸が、画素出力=列アンプ入力、列アンプ出力=AD入力、AD出力=デジタル信号値
⑨(凄くSN比が良いところだけを使いたいので)100万電子~200万電子の間の信号のみをAD変換
つまり、このセンサは通常用途では無いためかなり変わっていて、
”暗いところや飽和の半分までの信号はAD変換も全くせずに最初から黒潰れさせる”ということですね。
検査用途で、どうも赤外光を当てる様なので、そんなに暗いところは出てこないのかもしれませんが・・・。
そのため、上の図の一番左の画素出力半分辺りの”V_OFFSET_COLAMP”と書かれた緑の横線のところまで信号には、列アンプはクリップされていて(?)何も反応せず、中間光以上で反応を始めるようにしているようです。上図中央部の横軸で中間光を超えたあたりから列アンプが出力が変化しだすようになっているのはそのためです。
最早この時点で、通常皆さんお持ちの写真を撮るカメラへ搭載するイメージャーとしては使い物になりませんね(^^;)
また、SN比を稼ぐために飽和中間光以上の100万~200万電子の信号を用いるのは、
光ショットノイズに対する信号比が(暗いときよりも相対的に)稼げるからだそうです。
(信号電荷N個に対して光ショットノイズ電荷は√N個?のばらつきを発生させるという物理法則。そのためSN比的には N/√N=√N となり、信号電荷N個がより多い=より明るく、PDに集光が多い時の方が必ずSN比は良くなるという結果になることから)
↑画素等価回路図
以前既出ですが、
⑩グローバルシャッター機能搭載
⑪画素ピッチ:12um□
⑫6トランジスタ/pix (転送MOSトランジスタ無し)
そして、
⑬5V CMOSプロセス使用
⑭埋め込みフォトダイオードを採用せず。通常のpnジャンクションダイオード採用
⑮パラレルゲートキャパシター採用 (←Cpd及びCsのソース&ドレインがGNDに接続されたMOS)
⑯Cpd≒Cs=100fF (Cpdの方は正確には87fF)
以上全て、200万電子という膨大な飽和電子をPDに貯める、もしくはそれを読み出すための回路のダイナミックレンジを稼ぐための施策。
そして⑮のMOSキャパシタは、確かにトランジスタでは無いので⑫の6Tr/pixというのは正しいのですが、画素内で”PDの面積を奪う者”としては、トランジスタと同等以上に幅を利かせてるのでは?と予想します。
⑯PD面積は6x6umで画素のセンターに配置。その容量値は19fF
↑ということは、画素平面面積の丁度1/4がPD面積ということですね。
⑰ 200万電子の飽和時のPD上の振幅電圧値は、⑯の約100fFから(Q=CVで)約3V。sf2の出力である画素出力時は2.24V
↑確かに、このくらいの振幅電圧値であれば、5V系電源であればなんとか垂直信号線上のダイナミックレンジを確保可能な気がしますね。
ちなみに2.24V÷3V≒0.75倍
PD上から画素出力の間にソースフォロワが二段入っているため、ソースフォロワ二つ分のゲインで0.75倍。双方のソースフォロワゲインが同じである前提で考えると、ひとつのソースフォロワゲインは0.87倍程度ということに。
⑱画素ノイズ:303e-RMS ←でかっ!
↑これは、⑭の埋め込みPDでは無いというのも原因にあると思うのですが、
それに加えて⑫の転送トランジスタが無いこと&
⑲(このセンサは)CDSしない
↑これにより、RST(リセット)スイッチがPDノードをリセットした後にOFFした際のKTCノイズが取れないことにも原因があると思われます。
そして、1行=1Hの読み出し時間が3.8uSecと短かったのは、このCDSを行わないため、
リセットレベル信号を読み出すための(AD変換などの)時間を取る必要が無い恩恵も含まれた結果だと思われます。
今までの多くのCMOSIS製センサのポリシィを感じる特徴であった、”画素内にCDS用のsignal用とリセットノイズ信号用の保持容量をそれぞれ持つという構成を取らなかった”というのが今回のセンサの大きな特徴になっていると感じると共に、
今回は”どんな画期的な画素構成なのだろう?”と期待して読んでいた私は期待を裏切られました(--;)
いや、これはCMOSISの技術者が悪い訳では当然無く、私が勝手に期待していただけの話です(^^;)
むしろCMOSISの技術者は、そのセンサが求められている仕様を良く理解し、恐らく
”どうせ100万電子以上の信号領域しか使わないのであるから、CDS無しでノイズが乗ったとしてもSN的には何ら問題となることは無い”
という割り切りで、過去の自社構成に捕らわれること無く、このセンサに最適な構成を選んだという意味において褒められるべきだと個人的には思います(^^)
↑画素特性の測定結果
もう一見してPRNU以外のノイズが、通常お目にかかるセンサよりも一桁以上大きいですね(^^;)
まあ飽和電子数(Full well charge)はその分二桁近く大きいと思いますが。
ただ、FPN(固定パタンノイズ)は、このOCTなるセンサ適用されるシステムでは、異なる画像間の差分だけを採用する様ですので、理想的には引ききれるためいくら大きくても問題無い ということの様です。
Dark read noise(ランダムノイズ)も列アンプでゲインを2.35倍掛けてあげれば、450電子まで低減され、
実際使用される100万~200万電子の信号領域では、光ショットノイズが√Nなので1000電子以上あるため(無視できるとは言い難いと思いますが^^;)、全ノイズの支配要因では無いと。
気になるのは暗電流で3799電子@20℃
しかしこれも基本は固定パタンノイズであるため、恐らく差分画像では問題にならないということなのでしょう。
⑳パッケージ:セラミックの173ピンPGA
21) (量子効率(QE)の欄を見るとどうやら)このシステムで被写体?に照射される光は波長750nm
以上です
本当はこの後本報告内容は、実際にこのシステムで取得した画像と結論 という最終章へ続くのですが、正直うえの表の特性を見て私の個人的な興味が失せてしまいました(^^;)
(いや、どのみちここに載せ残した分は大した量ではありませんが)
世の中色んな用途向けのセンサがあって然るべきで、むしろそれは良いことだと思うのですが、今回私の想定以上に特殊用途及び特殊なセンサ過ぎて、私の興味の範囲を外れてしまいました(^^;)
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